コロナ後に米国を中心に世界で急拡大している、ディールデスク(Deal Desk)という概念をご存知でしょうか?
B2Bの営業活動にとってのコロナは、商談がオンライン化しただけではなく、実は顧客の購買判断のための情報収集が一気にデジタルに移行したことにより、取引のスピード感や効率性がより求められるきっかけとなりました。
さらに、取引業務のデジタル化に対応すべく、利用ツールや社内フローだけでなく、パーソナライズのためのコンテンツ作成など、営業に関わるあらゆるものがより複雑になっています。
そんな時に米国で急台頭してきたのがディールデスク(Deal Desk)です。
本記事ではシリコンバレー経験者の筆者が、営業のDXや取引のデジタル化において絶対に知っておくべき概念であるディールデスク(Deal Desk)ついて調査してまとめました。
目次
ディールデスク(Deal Desk)とは何か?意味は?
ひとことで言うなれば、一元的に取引を管理する場所(人やシステムなども含む)のことをディールデスク(Deal Desk)と言います。
直訳すると、Deal(取引)を管理するDesk(机)という意味ですね。
場所やデスクというと、なにやら部署っぽいですが、部署や担当として置いている所もあれば、システム上のプロセスなどを指す場合もあります。
価値の高い取引について、(営業、財務、開発といったような)部署の垣根を超えての話し合いを行うことができる場所、これが米国ではディールデスク(Deal Desk)と呼ばれています。
ディールデスク(Deal Desk)を用いると不要な時間/金銭/事務的コストを削減できます。
具体的には、リードタイムを最大25〜40%短縮させることができます(PwCによる統計)。
例えばですが、1ヶ月かかっていたリードタイムを最大で2週間ちょっとに短縮できるイメージなので、かなりスピード感が上がることがわかります。
ディールデスクのポジション的な立ち位置
ディールデスク(Deal Desk)の立ち位置としては、下記ポジション郡の中間地点に位置します。
- フロントオフィス(営業やCS等)
- バックオフィス(経理や法務等)
- プロダクトチーム(開発や研究等)
これらを横断的に取引という切り口で業務支援や分析、改善策を思考する場所がディールデスク(Deal Desk)です。
そのため、中間地点という意味合いから、ミドルオフィスなんて呼ばれ方もします。
特に、収益管理(Revenue Operations)に大きく寄与するため、企業によってはセールス部門やレベニュー部門内の役割やフローとして設置される場合が多いようです。
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小さい会社であれば、経営層や営業部長が兼任して責任を持ってる感じですね。
あえて日本的に言えば、部門を横断的に営業的な観点で支援する「営業事務の発展型職種」と言えばわかりやすいでしょうか。
受け身のカスタマーサポートから、テクノロジーを駆使した攻めのカスタマーサクセスに発展してきたように、受け身の営業事務から、テクノロジーを駆使した攻めのディールデスクに発展してきた概念、と言っても良いでしょう。
米国のディールデスクの広まりは、インサイドセールスを超えている?
ディールデスク(Deal Desk)は、元々金融業界で発展してきた概念です。
金融業界では公正な取引をするために各業務ごとに担当を細分化しつつ、迅速に正確な取引成立をさせるための取り組みとして発展してきた歴史があります。
昨今では、IT企業や一般企業でもthe modelなどを中心に、部門や部署機能が細分化されてきています。
営業範囲が広大な米国では、従業員が物理的に離れてきているものの、情報テクノロジーの発展によって購買者の情報収集能力とスピードが年々高まっているという事実があります。
そこでデジタル化のスピードに対応するため、企業の機能を単一的な部分最適ではなく、企業活動を包括的に「取引の効率化と収益の最大化をする」という観点で捉えるための概念として、一般企業にも徐々に浸透してきたようです。
更にそんな中コロナの影響で、世界的に在宅ワークが推し進められたと同時に、企業の機能分断とデジタル化がより加速。
こういった背景もあり、米国では既に一般的だったインサイドセールスよりも、ディールデスク(Deal Desk)が一気に広まったという事実が存在します。
縦軸がそれぞれの求人数(Jobs) from indeed.com
こちらの表は米indeed.comの求人数の推移を表したものですが、ある時点でインサイドセールスの求人数よりも、ディールデスク(Deal Desk)の求人数が上回っていることがわかります。
コロナによって日本ではインサイドセールスの概念が一気に広まりましたが、既に先進的な取り組みをしている米国は一歩先を行っている、と言ったところでしょうか。
ディールデスク(Deal Desk)に取り組むメリットとは?
ディールデスク(Deal Desk)は営業事務と同じように、企業によって責任や役割は様々ですが、大きく分けて2つの達成目標があります。
達成目標
- 取引フローを効率化すること(速度アップ)
- 取引の売上を最大化すること(収益アップ)
ディールデスク(Deal Desk)の目標は、フロントオフィス、バックオフィス、プロダクトの情報集約と連携を加速させ、各部門における取引の事務的なプロセスをサポートし、顧客とって最適なサービスと価格で取引を成立させることです。
営業的な目線で言うと、取引案件は「小さくて同じような多くの取引」と「大きくて複雑な少数の取引」、つまり中小企業向けと大企業向けにざっくりわけられます。
そのため、それぞれの取引に対する取引フローの効率化と取引価格の最大化、とも言い換えられます。
- 低価格の中小企業(SMB)案件 = 取引フローの効率化
- 高価格の大企業(エンプラ)案件 = 取引価格の最大化
これらのミッションや目標を持ったディールデスク(Deal Desk)が正しく機能した場合、関係する各チームが得られるメリットは次のようになります。
メリット
■フロントオフィスのメリット
スピード感を持った取引フローの構築や、個別対応をしないとならない顧客に対する事務的なサポートが得られる。それによって、企画提案や顧客接点/顧客支援など、よりコアな業務に時間を割くことで、売上生産性を最大化出来るようになる。
■バックオフィスのメリット
取引に関するミスと業務量を最小化し、契約管理や収益管理、危機予測や収益予測を、リアルタイムでより確実に把握出来るようになる。
■プロダクトチームのメリット
利用前の顧客が製品にどのように反応しているか、どういった顧客の継続率が良くて、悪いのは何かなどについて素早く学び、顧客だけでなく、ビジネス全体や市場についての情報を素早く得ることが出来るようになる。
このように、ディールデスク(Deal Desk)を構築することで、営業の業務改善だけでなく、企業全体の生産性を高めることに繋がります。
これが米国を中心にディールデスク(Deal Desk)の概念が急拡大している大きな理由です。
ディールデスク(Deal Desk)を成功に導く4つのポイント
ディールデスク(Deal Desk)は営業に関わる最新概念ですが、勿論良い面ばかりではありません。
場合によっては取引速度が遅くなったり、部署間の連携が逆に非効率を生み出したりするなど、ディールデスク(Deal Desk)は顧客の購入体験を逆に低下させる危険性もはらんでいます。
最も重要となるのは、ディールデスク(Deal Desk)を推進する人、つまり責任者です。
では、ディールデスク(Deal Desk)を成功に導くためにどうすれば良いのでしょうか。
最初に最も大事になるのは、営業の取引プロセスを効率化/自動化することです。
ここからは、そのためにディールデスク(Deal Desk)を推進する責任者が押さえておきたい4つのポイントを解説していきます。
1. 自社で利用してるツールを熟知する
実用的なツールの操作に関する知識は、業務の効率化を加速し、より価値あることに使うための時間、いわゆる余剰時間を生み出します。
具体的には、ABMツール、CRM、SFA、CPQ、ERP等といったツールを扱えることが必要となります。
一般的にディールデスク(Deal Desk)の推進者であり責任者は、経営層や営業部長と兼任していて組織全体の責任者でもある場合が多いため、時間は彼らにとって最も貴重な資源です。
実用的なツールを駆使することができれば、スタッフのトレーニング、優先度の高い問題への応対、会社を成長させるための戦略立案、といった組織成長に必要不可欠な部分に多くの時間を費やすことができるようになります。
実用的なツールの使用により、責任者の余剰時間(利用可能な時間)が増えることは組織の収益アップに繋がるのです。
2. 情報管理と整理
効果的なディールデスク(Deal Desk)の運用のためには、組織を跨いで集められた情報がわかりやすく整理されていることが必要です。
情報が整理されていることで、運用効率が向上するだけでなく、正確な収益予測や、将来に対する的確な意思決定が可能となります。
確立の高い意思決定が行われることは、会社の持続的な発展に欠かせません。
フロントオフィス、バックオフィス、プロダクトチームといった様々な部署が意思決定に際して、信頼できる情報源として整理されていることで、各部署が適切に意思決定を行えるようになります。
ディールデスク(Deal Desk)により部署を跨いで一元的に集められた情報が管理・整理されていることは、複数の部門をまたいで成功するための要となるのです。
3. ルールをドキュメント化する
重要事項や反復手続き、指示書き等をドキュメント化しておくことで、各部署における迅速な意思決定が可能となります。
例えば、セールスオペレーション(SalesOps)は、組織の営業に関わるSOP(業務の作業や進行上の手順について詳細に記述した指示書)を意思決定をする際の根拠とします。
※SalesOpsとは、セールスを効率的に行うためのテクノロジーやプロセスを整理、効率化し、成果を最大化するための役割(部署)を指します。
ディールデスク(Deal Desk)が営業企画チームと連携してリファレンスやドキュメントを作成しておくことで、営業担当者は事務手続き等で時間を浪費してしまうことがなくなり、本来の業務である営業活動により多くの時間を費やすことができるようになります。
さらに、明確にドキュメント化された承認プロセスが存在することで、営業部の責任者は組織全体の戦略的意図を汲み取ることが容易となり、迅速かつ的確な判断を下せるようになります。
4. Quote-to-Cashを自動化する
Quote-to-Cash (QTC)というのは、見積もり→契約→請求→入金回収という一連の業務を、一元管理していこうという発想です。
QTCのような内容が細かく、単純作業を繰り返すようなプロセスを自動化することで、取引における時間を大幅に節約することができるようになります。
すなわち、QTCが自動化されることにより、見積もり〜回収までの一連のプロセスに必要なシステム数が減少することで、雑務に忙殺されてしまうことを防ぐことができます。
QTCが自動化されることで、組織全体のより効率的な稼働が実現され、生産性が圧倒的に高い営業組織を作ることが出来るようになるでしょう。
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ディールデスク(Deal Desk)に取り組む前に、営業の業務改善をせよ
ここまで見てきたようにディールデスク(Deal Desk)は、営業の取引プロセスを効率化/自動化することにより、取引の速度アップと収益アップとが達成される魅力的な取り組みです。
とはいえこれらは、営業の取引業務フローの根本改善がされない限り達成されません。
業務フローの無駄プロセスを残したまま速度改善をするのは本末転倒ですし、情報を定量的に収集せず価格コントロールを属人的に行えばそれは勘でしかないでしょう。
ディールデスク(Deal Desk)を取り組もうとした際の最初のミッションは、業務フローの改善になります。自動化はその後で良いのです。
つまり、はじめてこのディールデスク(Deal Desk)という概念を知った方々は、最初にやるのはディールデスク(Deal Desk)に取り組むことではなく、営業事務作業の業務改善です。
ディールデスク(Deal Desk)に取り組むのは、業務改善を行った上で中長期的に取り組むのが現実的です。
ここからは、明日から営業の業務改善に取り組むための1歩目のステップを伝授します。
最初の第1ステップはここだ!
最初に取り組むべき部分は、商談フロー(リード獲得から提案)というよりも、取引準備/開始〜取引終了までの事務的な営業プロセスの改善です。
商談フロー(リード獲得から提案)の改善は、事務作業を効率化するだけで比例して良くなります。
なので、遠回りに見えますが、本来はこちらの事務作業の改善から着手するべきなのです。
見積書などの書類作成や事務連絡、社内・社外承認、契約締結や売上回収、契約変更や取引の更新など、いわゆる営業の事務作業的な部分です。
これらの事務的な営業プロセスが
- 関係者が物理的に離れていてもミスなくスムーズに行われ
- 一元的に管理することで情報がリアルタイムで集約され
- 営業がスピード感を持って臨機応変に対応する
ためには、クラウドで全ての取引プロセスを一元管理することが重要になります。
なので最初は、ディールデスク(Deal Desk)という職種や部署を無理に作る必要はありません。
コロナに合わせて営業生産性を上げたいなら、まずは、「営業の事務作業」と「取引業務フロー」の改善及びプロセスのデジタル化が出来れば問題ないのです。
それらが速度アップと収益アップにダイレクトに繋がる部分なので、まずは一番やりやすいこの部分から着手していくのが望ましいでしょう。
未来的な営業組織を早くから作り上げ、コロナを乗り越える
ある意味、日本で先駆けてディールデスク(Deal Desk)に取り組むことや、それ以前の営業の事務的な取引業務フローを効率化/自動化が出来るだけでも大きなアドバンテージを得ることが出来ます。
ぶっちゃけ日本企業は、営業の業務改善に関する意識がかなり低いので、業務改善に取り組むだけで1歩も2歩も先に行くことが出来ます。
コロナによってリモートワークによる物理的な分断が加速し、企業間取引がデジタル化していく中で必要になるのは、個別最適ではなく、リソースやプロセスを統合して全体最適を目指す取り組みです。
中長期的にディールデスク(Deal Desk)に早くから取り組めるよう、短期的には少しづつ目の前の営業の業務改善をしていくことが結果的に収益アップに繋がります。
米国企業が既に先んじて取り組んで結果が出ているので、疑う余地のない事実なのです。
この取組みにいち早く着手し、コロナ後のデジタル社会に乗り遅れることのないように準備していくことが、よりよい未来に繋がることは確実でしょう。